チャバネゴキブリ

分類上の位置 ゴキブリ目、ヒメゴキブリ科
学    名 Blattella germanica ()
和    名 チャバネゴキブリ
英    名 German cockroach

 

 形態
 他種に比べて小型。成虫の体長は10〜15mmの間にあるが、通常、♂は体長約12mm、翅長約10mm、♀は体長、翅長とも約11mm。色は黄褐色から褐色。前胸背板に明瞭な2本の黒い縦じまがある。幼虫では、この縦じまは幅広く、中胸・後胸背板まで続くほか、腹部後端も黒色なので、体前半部の正中線部分が黄色で、他は黒色といってもよい。

 成虫の♂♀の区別
 ♂は体全体ほっそりしているが、♀はやや幅広く濃色の感じ。尾端に卵鞘をつけていれば♀にまちがいない。♂の腹部第7・8節の背面には誘惑腺がある。はっきりした凹みとして見ることができる。♀にはこれはない。尾毛は♂では11節、♀では12節。

 分布
 本種は、沖縄から北海道まで全国的に分布する。世界的にも広く分布するといってよい。といっても、日本では無加温の状態では越冬できない。つまり、暖房の存在する所、あるいは熱源がある所で越冬できる。一般的には、暖房を備えたビル建築物で越冬できるため、生息場所もこういった建築物に限局される。
 オフィスビル、ホテル、飲食店、病院等に多い。新幹線に多いのも本種である。逆に、木造日本家屋の一般家庭には少ない。


 生態
 昆虫の発育の仕方や期間は諸環境要因に大きく影響をうけるが、低温に弱いチャバネゴキブリは特に温度の影響が大きい。25℃の定温下の生活史は次の通りであった。
 雌成虫の産む卵は、卵鞘の中におさめられて産み出される。通常1卵鞘からは30〜40匹の幼虫がふ化してくる。老化した成虫の産んだ卵鞘のふ化幼虫数は少なくなってくる。
 雌成虫は、卵鞘を産みだしても体から離さず、尾端につけた状態にしている。これを体から無理にはずすと、ふ化が悪くなる。たぶん乾燥のためだと考えられるが、母成虫が持ち歩くのは、卵の保護のためである。卵期間は21〜28日間で、ふ化の直前に体から離す。
 ふ化した1令幼虫は集合性が強く、物かげに群れを作ってひそみ、夜になるとはいまわって餌をとる。幼虫は6令を経過する。幼虫期間は、雄で52.0〜71.0日、雌で51.6〜72.1日であった。平均して約60日と考えればよいだろう。
 羽化した成虫は、まもなく交尾をして、10日も経つと第1回の産卵が始まる。その卵鞘は、尾端につけたまま活動することは前述の通りである。25日間ほどで、卵鞘をはずしてふ化するが、その後約1週間で次の卵鞘が産みだされてくる。ほぼ1ヵ月に1回の間隔で産卵すると考えてよい。緒方(1976)の観察では、最多は一生の間に7回の産卵を行ったが、60%の雌成虫が5回の産卵であった。そして6回目以降の卵鞘は、ふ化率が悪くなり、また、1卵鞘当たりのふ化幼虫数も少なくなった。
 以上は25℃定温下の経過で、約2年間に6世代を経過した。しかし、春夏秋冬の季節変化があり、また、暖房、冷房という人工操作の加わる実際の建築物内ではどうであろうか。
 川崎のある標準的なオフィスビルの中での観察によれば、約1.5年の間に4世代を経過した。夏季は最も繁殖が激しく、幼虫期間は雄約51日、雌約54日。卵期間も16〜21日間と短かかった。つまり頻繁に産卵を繰り返した。しかし、10月に入ると産卵は少くなり、12月にはストップした。また、雄成虫は1O月に入ると急激に死亡し始めた。しかし、雌成虫は、産卵こそ抑制されたが越冬し、翌年5月頃から産卵が正常に再開された。特に、晩夏にふ化し、秋に羽化した成虫は元気に越冬し、翌年の繁殖の強力な母体となった。同じビルでも、暖房のない冬は、全く越冬できず、雄では1O月頃から、雌では11月頃から死に始め、年内に死に絶えてしまった。  以上の観察は、それぞれの建築物内のテーブル上に固定された飼育条件で行なわれたものだから、実際は、選択的に高温の場所に集って生活することが想像されるので、より条件はよくなることが予想される。類推していえば、日本のビル環境では、4〜9月の半年間が本種の活動期間で、この間に繁殖し、冬期は活動は抑制されていて、年内に2〜3世代を経過しているように考えられる。

 習性
 チャバネゴキブリも、原則として夜間に行動し、昼間明るい間は物陰に潜伏している。潜伏場所では、群れを作る習性がある。若令幼虫ほどこの傾向は強い。
(1)集合性
 幼虫を1匹で飼育した場合と、2匹あるいは5、10匹と複数で飼育した場合、その発育期間を比較すると、1匹では約63日、複数区では55〜58日と、1匹区では明らかに発育の遅延が見られる。つまり、群れて生活する方が好ましいのだ。
 この群れを形成するために、ゴキブリは、仲間を誘引する物質を糞の中に排泄する。つまり、集合フェロモンと呼ばれる物質である。このフェロモンによって、仲間同士が呼び合って群れが形成される。
 この仲間の存在によって発育が促進されるわけだが、このメカニズムはまだ不明である。しかし、お互いの存在を認知する方法は明らかで、これは、聴覚や嗅覚ではなく、触角による触覚である。自分の触角の届く範囲に仲間がいて、これに触れることができれば、発育が促進されるのである。
(2)狭所嗜好性
 ゴキブリは、潜伏する時に狭い隙間に好んで潜る。チャバネゴキブリ成虫に1.6mmから12.7mmの範囲の隙間を選ばせたら、85%は4.8mmの隙間に集まったという報告がある(Berthold et al 1967)。Wille(1920)によれば、各令の虫が入り込める最小の隙間は、1〜2令幼虫で0.5mm、4令幼虫1.0mm、6令幼虫1.6mm、雄成虫で1.5〜1.6mm、空腹の雌成虫で1.6mm、卵鞘を作る1日前の妊娠雌で4.5mmであるという。
(3)温度選好性  チャバネゴキブリは高温を好むといったが高いほどよいというものでもない。ある好適温度というものがあるはずである。建物の中の分布を観察しても、ガス台、湯沸器、冷蔵庫の裏、テレビの中に集まっていることが多い。Gunn(1935)によると、15℃から35℃の間の連続した温度勾配を作って、どの場所に集まるかを調べた。その結果は、21℃から33℃の間に分布したが、大部分は26℃から32℃の間に集まり、最も多く集まったのは29℃の所であった。

 


クロゴキブリ

分類上の位置 ゴキブリ目、ゴキブリ科
学    名 Periplaneta fuliginosa (SERVlLLE
和    名 クロゴキブリ
英    名 Smoky-brown cockroach

 

 形態
  成虫では♂は体長25mm内外、翅長23〜25mm。♀の体長は25〜30mm、翅長25mm。体全体光沢ある褐黒色。斑紋らしいものは全くない。ヤマトゴキブリによく似ているが、前胸背板が幅広く、表面がフラットで凹凸がないこと、♀成虫でも完全に長い翅をもつことで区別できる。また、前胸背板に全く斑紋がないことで、ワモンゴキブリやトビイロゴキブリと区別する。  幼虫は、若令ではきわめて特徴的である。特に1令幼虫ではきわめて顕著で、真黒な体色に、2本の白い横じまがみられる。前の方の白いしまは、中胸背板を横切り、太く完全である。後の方のは、腹節第2節あたりにあって、中央付近は消えていて、両サイドにスポットのように見える場合もある。幼虫の中令以降はこの白いしまが消えて、斑紋はなくなる。やはり、ヤマトゴキブリとの区別が難しくなるが、クロゴキブリは、体全体が赤褐色で赤味が強い。これに対し、ヤマトゴキブリは、黄褐〜黒褐味が強い。  卵鞘の大きさは、平均して長さ12.2mm、幅約5.5mm、厚さ約3.1mmで、比較的細長い。節はそれほど明瞭でない。  図に見られるように、龍骨部(がまぐちのふたに当たる部分)の下に、12〜13個の突起部がある。  

 分布
 現在、わが国では、九州から北海道まで広く分布して、建築物内の主要な害虫となっている。沖縄では害虫として問題になっていない。北海道でも散見される種類で、主として本州、四国、九州に多い。
 生息している建物は、木造の日本家屋、コンクリート造アパートなどの住居に多い。チャバネゴキブリが都市のビル、飲食店、ホテル、病院などに多く、ヤマトゴキブリが農家や、屋外に多いのに対して、その中間的な分布パターンをもっている。
 世界的には、北米と日本だけに分布するもので、北米でも重要な害虫となっている。

 周年経過
クロゴキブリは、卵から成虫にいたるまで足掛け2年の経過をたどる。
 東京地方の観察(緒方、未発表)によれば、5月頃産みつけられた卵は、7月頃ふ化し、発育した幼虫は、幼虫の状態で越冬し、翌年7月頃羽化して成虫となる。  三重地方での観察によると(高木、1980)、卵は、7〜10月の期間に多く産みだされる。早い時期に産まれた卵からかえった幼虫は中令幼虫で多く越冬し、9月以降に産卵されたものは卵で越冬する。だから、越冬卵からの1令幼虫が6〜7月に多く、中令幼虫で越冬した成虫の産卵による1令幼虫が9・10月にふえる。1年間を通して、常に各期の個体が見られるが、活動シーズンは5〜10月であり、11月から4月までの越冬期は主として中・老熟幼虫で、これに卵を加えたものである。

 生態*
 クロゴキブリも卵鞘で卵を産むが、すぐ基物に唾液ではりつけて、尾瑞にはつけてない。人目につかない物陰の木材のくぼみなどにはりつける。羽化後平均約17日で産卵が始まる。
 一卵鞘中の卵数は、26個が最も多く、ついで22個で、約70%を占める。クロゴキブリは、産卵後にすぐ卵鞘をはなすので産卵頻度は高く、7〜8月には平均して3〜5日おきに、25℃で5〜6日間隔で産卵をする。25℃下では一生の間に平均20回の産卵をした。ビルの室温下では約33回であった。
 卵期間は、温度や、季節によって全く異なってくる。25℃室温下で約52日、30〜32℃で32〜36日であった。季節的には、5月産卵のものが約61日、7月産卵のものが約38日であった。しかし、卵越冬のものは当然長く、9〜10月に産卵されたものは、大体6月にふ化するので、230日から300日を要することになる。
 幼虫期間もまた、環境要因に大きく影響をうける。緒方の観察では、25℃定温下では、平均約243日であった。ビル内の常温下で平均約289日、木造家屋内で平均360日であった。藤田によると、25℃恒温下で表2のように、10令を経過し、平均は322.4日であった。京都では10〜11月に発育を停止して越冬に入り、5月に再び発育が始まった
 成虫の寿命は、25℃下で♂で平均約207日、♀で平均約197日。ビル環境下で、♂平均約238日、♀平均約294日であった。これを卵からの一生の期間にすると、それぞれ451、440、353、436日であり、1年半近くとなる。
*主として、緒方(未発表)、藤田(1959)、高木(1978)によった。

 習性
 クロゴキブリの潜伏行動を、容器中に並べた紙製の角型筒のシェルターを用いて、実験的に調べた結果は次の通りであった(辻ら、1973)。
 単独成虫の隙間高さへの好みは、1>2>4>O.5cmの順だった。同時に2頭の成虫を入れると、通常別々のシェルターに別れて入った。老令幼虫の好みは、0.5>1>2cmの順で、また同時に入れた2頭は別々のシェルター内に入った。1令幼虫は、0.5cmと1cmのシェルター間に選択を示さなかったが、どちらか一方に共存して入った。
 クロゴキブリの若令幼虫は群居性があって、排泄物で条件づけられたかくれ場所に誘引されることが知られている(石井、1970)。潜伏と集合形成は、本来異なる行動である。本種では、若令のときは集合性が強いが、老令となり、成虫となると、逆に排他性が現われるようである。

 歩行行動
 クロゴキブリは、昼間物かげに潜伏していて、夜間に出没して行動する。ゴキブリ防除の手段として、殺虫剤の残留噴霧や、捕獲器の設置が常用されている。これらの方法の効果を高めるためには、ゴキブリの通路の把握こそ必須である。ゴキブリの歩く場所に、殺虫剤を散布し捕獲器をおいてこそ効果をあげることができる。  クロゴキブリはどこを歩くのか。クロゴキブリの多数すみついている建物で、床や壁にすす紙を張って、それについたゴキブリの足跡から行動を追跡した結果は次の通りであった(高木、1979)。
 最も多かったのは、床面であった。それも全面ではなく、壁際5cm内の所だった。また、壁面にも足跡があったが、これは、窓枠や幅木に沿った場所であった。また、棚板にも多かったが、これは床面から支柱に沿って棚にのぼり、最上段で水平走をしたらしい。  ゴキブリは、夜間に行動するからといって、目が見えて、広い所を歩くのではなく、むしろ曝露をきらって、二つの面で作られた内角の角近くを、触角を使って両面を知覚しながら、角に沿って歩行するもののようである。